2008/07/07

百器徒然袋 雨  京極夏彦

 榎木津礼次郎の憂鬱

  ああ、あああ、愉しすぎて死にそうだ!!!
 最初は京極先生の本って難しい…と、思いこんでいた。
 やがてはまってしまうと、たしかに難しいがキャラ設定が抜群だぞ、などと思い始め、やがてとんでもない面白い作家先生なのかもしれない、と理解しはじめた。

 おもしろい。つーか、愉しすぎる。
 天性の躁病質である榎木津礼次郎が中心で、まわりに人々はほとんどが彼の従者。彼にいわせれば下僕。なんと、探偵事務所へ訪れた依頼人まで下僕になってしまうのだ。
 しかも、あの叱られたら大人でも失禁しかねないほど怖い、という中禅寺秋彦でさえ、いやいや騒動に巻き込まれてしまう。いや、巻き込まれるっていうか、ほとんどおもしろがって参加してるだろう? とつっこみをいれたくなるほど彼も愉しそうなのである。

 物語は実は3本入っており、最初の1本が「榎木津礼次郎の憂鬱」なんだけど、どうして3本も…。
 明らかに3冊できるじゃないの、と思う程分厚いけど、先生の本にしてはそれほどでもない。(笑)
 
 元子爵の息子で、しかもその父親は経済的にも成功しており(要は金持ち)、財界では相当な人物である上に榎木津自身は帝大(今の東大?)卒業。
 しかも容姿端麗。まるで人形のように美しい顔立ちと長身。
 でもなぜか強くて、そして性格はまるで破綻している。
 他人の過去が見え、ほとんどその能力だけで探偵業を選んだだけあって、依頼人の話も聞かなければ捜査も聞き込みもしない。できれば依頼も断りたい一心。
 誰彼かまわず罵声をあびせ、貶してくさしてばかりである。
 
 まわりに集まってしまう「下僕」たちは、なんといわれようと彼のそばにいたいらしく、文句を言ったり面食らったりしながらも惹かれているらしい。

 今回は、あのおっかない根暗そうな陰陽師、中禅寺秋彦が彼に仕切られて、ある男達に制裁を加えるというおはなし。
 そんな話には乗りたくない、といいながら自らが洗って干していた釜に目をやり、
「あ、悪趣味なことを考えてしまった」
 と呟く。
 内容もなにも分からないにも拘わらず、それだ、それでいこうじゃないか!とノリまくる榎木津。
 こんな明るい二人の話が読めるなんて。
 でもこれ、「榎木津礼次郎の憂鬱」ではなくて、「下僕達の憂鬱」じゃないのかしらん? 京極堂さんはあきらかに楽しんでいる風だし…。
 
 長い話に疲れたら、ちょっと骨休めにいいかも。いや、短くはないけど。

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2008/02/22

ショーシャンクの空に

Shawshank

 これほどついてない男はいないかもしれない。
 妻に浮気をされ、憤りのあまり殺してやりたいとまで思ったもののそれを諦めたというのに、無実の罪でショーシャンク刑務所に入れられた男、アンディ。
 罪は重く、一生をその刑務所で終えなければならないのだ。
 目線はモーガン・フリーマン演じるところのレッドであり、彼は新しい受刑者が入ってきた日、最初に泣き出すのはアンディだろうと仲間と貴重な煙草を賭ける。
 だが、アンディは静かだった。
 彼は、若くして銀行の副頭取を務めた男で、刑務所に入ってなお、一種独特な雰囲気を持つ、寡黙な男だった。

 刑務所では慣れない仕事をさせられ、刑務官たちは彼らを人として扱わず、食事にはウジ虫が混じっているほど悲惨だ。
 その上、アンディをつけ狙って、彼をレイプする男達の存在が、アンディを壊しかけていた。毎日を戦い、傷だらけで過ごしている男を、レッドはどうしてやることもできないが、それでも彼らの間には確実に友情が芽生えていく。

 やがてアンディのかつての仕事で得た知識が、刑務官達を救う手だてとなる。
 金銭面でのあらゆる問題を解決してくれるアンディは、貴重な存在になっていくのだ。
 所長は、彼を使って二重帳簿を作り、私腹を肥やして満足している。
 
 ついていない男――アンディは自分をそう思っている。
 本当に若かりし頃殺人を犯してしまったレッドからすれば、確かにそう思える。
 そんな中でも、自分をかろうじて見失うことなく生きようとするアンディは、レッドにも好ましい男として存在し始める。
 レッドはいう。
「希望などもってはいけない」と。
 幾度も、仮出所の審理に駄目を出され続けているレッドは、それでも出たいと思い続けていたはずだ。
 けれども、アンディが20年、レッドが30年という長きにわたって刑務所の塀に囲まれた生活に慣れてくると、今度は外の世界が怖くなるのだ。
 まるで浦島太郎のように、世間は変わっている。
 そんな中にいて、アンディはなおも希望を失わない。
 
 アンディは、ある日刑務所の狭い部屋から煙のように消え失せた。
 石の壁に囲まれたそこにはなにも変わったところはないというのに。
 ただ、レッドが手に入れて渡した女優の大きなポスターが貼られているだけ。
 アンディは、脱獄に成功したのだ。

 レッドは、もう何度目になるか分からない仮出所審理の審理官たちを前に、「こんなことは時間の無駄だ。仮出所など、しなくてもいい。もう一度、自分が殺してしまった相手にあって、話がしたい。だが、それはもう無理だ」という。
 これまでへらへらと、「いつでも社会復帰できますよ」といっていたレッドは、今はもう塀の外へ出ることに、不安のほうが勝っていたのだ。

 それでも、残された仲間たちは風のように鮮やかに脱獄を果たしたアンディの話をする。
 決して諦めず、小さな登山用のロックハンマーひとつで、僅かの土をこっそりとズボンの裾から落としながら、アンディは20年間も自由になることに向かっていたのだ。

 ラストがいい。
 頑強な塀の中の、陰鬱な世界とは打って変わったメキシコの真っ青な海と、金色の砂。
 憎き所長と横暴で凶暴な刑務官の罪を見事に暴き、アンディはかつてレッドに語ったように海にいた。
 長き物語は、この一場面で爽快にエンディングを迎える。

 希望――

 それを持ち続けるのは難しい。
 それを諦め、捨ててしまうのは簡単だ。毎日を惰性に流されればいい。
 けれども、人は成し遂げようと思ったときには、必ずそれを達成することができるのかもしれない。
 そんな希望を忘れてはならない、ついてないと人生を投げるのではなく、そこから脱出し、なお夢を叶えることができるんだよ、とアンディは教えてくれた気がした。

ショーシャンクの空に DVD ショーシャンクの空に

販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ
発売日:2007/12/07
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2008/02/03

OC

Oc

 セレブの街、オレンジカウンティのニューポートビーチが舞台。
 そういわれても、想像もつかないわけだけど、街全体がリッチな人々で構成されているということで、週一回はパーティー。
 月に一度はフォーマルなパーティーと、夫人達は大忙しなんである。

 その街から離れた場所にある、チノという街で、前科者の兄に引っ張られるようにして、車泥棒として逮捕されてしまった17歳のライアンは、実は生真面目な少年だった。
 飲んだくれの母と、その恋人に暴力をふるわれる毎日で、極めて悲惨な生活をしている。
 そんな彼の公設弁護人として出会ったサンディ・コーエンという男性は、彼が本当のワルでないこと、そして成績優秀な子供であることを知り、なにかあったら相談しなさいといってくれるが、ライアンはまともには受け取れなかった。
 だが、家に帰ると母親から追い出され、その恋人の男にたたき出されるようにして行き場を失ってしまう。
 そんなライアンをサンディが家に連れ帰るが、そこは見たこともないほど裕福な高級な屋敷だった。

 結局、人柄がものすごくいいサンディは、ライアンにかつての自分を重ね合わせ、なんとか救いたいと思っているのだが、妻のキルスティンは反対する。彼らには、ライアンと同じ年の息子、アダムがいて、その影響を恐れたのだ。

 この出会いがいい。
 いじめられっ子で、オタクで皮肉屋のアダムは、ライアンを見て自分がやっていたゲームを中断し、第一声が「ゲーム、する?」
 好きな女の子サマーの名をつけた小さなヨットを持っているが、彼女はアダムの名前もろくに覚えていない。そして、隣の屋敷に住むマリッサ。学校一の美少女でお嬢様なのに、出会ったばかりのライアンに煙草を所望。
 アダムの好きな、おしゃべりでお茶目なサマーとは親友同士。

 恋愛ドラマはあんまり見ない私だけど、この屋敷の庭にあるプールとその向こうに見える海。そして、そのプールの際に建つプールハウスに住まうことになったライアンの、その風景だけでもすごく惹かれる。
 マリッサの母親で、超ゴージャスでいけ好かないジュディ・クーパー。
 アダムの両親のコーエン夫妻。
 学校で、マリッサの恋人であるルークのいちいちいけ好かないオーソドックスないじわるも楽しい。

 とにかく、もったいないくらいドラマ展開のスピードが速いのだ。
 おもしろい。セレブの世界も興味深い。そこに異端児であるライアンが、いろんな苦境に立たされつつも、馴染んでいく様が嬉しい。

 ここのキャラクターたちが、いけ好かないジュディでさえも愛しく、親近感を感じてしまう。

 久々に、青春の香りのするドラマで、リフレッシュした私でした。
 
 

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2008/01/16

セル

セル 上巻 (1) (新潮文庫 キ 3-56) Book セル 上巻 (1) (新潮文庫 キ 3-56)

著者:スティーヴン・キング
販売元:新潮社

 アイスクリームを買う列に並んでいた、漫画家であり美術教師のクレイの目の前で、女性が携帯をかけはじめ、いきなり歯を剥きだして暴れ出した。
 同じ列で携帯を使っていた女子高生もまた、狂ったように他人に噛みつき、変貌した。

 クレイは、近くにいた男とふたり、周りのすさまじい変化に呆然とするばかりだ。
 クレイは独立するための作品をボストンの出版社に見せ、それが売れたばかりだった。 別居中の妻と息子に会って、それを伝えてこれからやり直しができるだろうかという矢先であり、家が遠い北のメイン州にあることから、ふたりの安否が気になる。

 町はいよいよ騒然となり、一緒に逃げていたトムと共に母を亡くしたばかりの少女アリスと出会い、三人はメイン州を目指して歩き出す。

 携帯によって不振な電波を受けた人々は、最初の暴力的な狂乱が収まってくると、徐々に変化を始めた。彼らは昼間よりそって眠り、携帯を持っていなかった人々は夜、食糧を探しながら各々の目的地へ向かって歩くしかない。


 いきなりの展開にあれよあれよという勢いで読んでしまった。
 どこから現れたかは不明なまま、あるいはテロかと思われる電磁波によって、人々は過去の記憶を「消去」され、眠りについて「再起動」されているのではないかという、コンピュータまがいの発想がおもしろい。
 携帯が蔓延して、ほとんどの人々が持ち始めたために、騒動が起こったらすぐに電話を耳に当てるため、狂乱はあっという間に伝わってしまうのだ。
 もし、今誰かが暴れ出して、殺人を起こしたりしたなら、やはり周りの目撃者はほとんどが携帯を開いて警察に電話するなり、知人に伝えるということをするのではないか。だからまるでゾンビのように自我をなくした人は増えるばかりだ。
 そういう携帯を使ったホラーは多いが、キングの物語では単なる「ゾンビ」じみた人々とはならず、それが次第にもっと不気味な存在へと進化していくのが怖い。

 取り残された人々は、疲れ、絶望して、次第にあっちの仲間になったほうがましでは、と思い始める。新しい人類の生き方として、選択する余地があるのではないかと。

 クレイたちは、彼らが眠っている間身動きをしないことから、彼らを一斉に処分する方法を考えつく。
 だが、そのために自分たちの立場はいよいよ悪くなってしまうのだ。
 そんな彼らを誹謗する、普通の人々に、アリスは「でも、とりあえず自分たちは行動した」と告げる。「あなたたちはなにをしたの?」と。

 今の、これまでの人間のまま生きようとする人たちと、それを捨ててもいいと投げやりになった人々との、戦いまで加わる。
 そして、大切な息子をなんとしても救いたい、救えなくても今の姿を確認したい、というクレイの父性が悲しい。
 子どもを思い続けるクレイに、ずっとついてきた満身創痍のアリス。ゲイの男、トム。寄宿舎に取り残されていたコンピュータの天才少年ジョーダン。
 お互いの関わりがお互いを支えている。
 いくつもの困難を乗り越えてきたが、やがてきっとゾンビになったか死んでしまったであろう息子を捜し続けるクレイと、トム、ジョーダンは道を分かつ。けれども、いつか会えるようにと、道路に印を残してくれるようにふたりに頼む。

 荒廃してしまった、文明すら残っていない世界の中で、三人の友情が続くことだけが救いだったかもしれない。

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2007/12/31

アイアムレジェンド

Photo

ネビル博士は、犬のサムと荒れ果てたニューヨークで狩りをする。
ジャングル化しつつあるニューヨークの街には、草食動物の鹿がいるが、肉食獣も生息しているのだ。
人類がまったくいない世界とはいえ、のんびりと暮らしてはいけそうにない様子。
それでも、航空母艦の上からゴルフをしたり、正午には港へ出て、生き残った人間がいないか、放送でかたりかけてもみる。

自宅へ帰るときには、匂い消しを玄関に撒き、どうも警戒している様子であるし、日はまだあるというのに夕暮れと共に頑丈なシャッターを窓におろして鍵をかける。
鍵は尋常じゃない。ものすごいでかさだ。
そして――
眠れないほど騒がしく不気味な気配が外から感じられる。
犬とぴったり寄り添って、彼は銃を抱えて眠る。

Aから順番に借りていっているビデオショップでは、たくさんのマネキンが話し相手だ。
顔を向こうに向けた女性マネキンに、今度声をかけてみるよ、と店員マネキンに話しかけるネビル。でも、誰も返事をしてはくれない。犬だけが応じてくれるものの、犬も話はしてくれはしない。
それでも、彼は犬の存在に救われているのがよく分かる。

明るい昼間の様子とは違い、昼でも暗いビルの中に犬が入ってしまったとき、ネビルは死ぬほどびびる。
大声で犬を呼べないなにかの気配がそこにある。

彼は軍の将校で、人類はこの世の中はあるウイルスによって感染した人々に文字通りほろぼされてしまったのだ。
生き残りはいないと疑わないネビルは、孤独に耐え、それでも感染した人々を治す薬を密かに研究している。
毛のない感染ネズミの凶暴さ。これが症状だとしたら、人間はどうなっているのか計り知れない。

そして、その感染した人間達は夜、襲ってくるのだ――

生活の均整が崩れていく瞬間が怖い。
よりどころである犬。
かつてトム・ハンクスが演じた孤島での暮らしにバレーボールが友であり、それを失ったときの彼の哀しみは痛いほどだったが、それよりもうんと心通わせられる存在であるサムを失うことのないように、と祈るばかりだった。

ゾンビ――とは違う。
彼らは死人ではなく、ウイルスで変貌してはいるが人間だ。人間とはいえ、その有様はすさまじいばかりなのだけれど。
だから知恵が発達していく。罠も仕掛ける。明るい光が苦手でも克服しようとする個体が生まれる。
人格などはないのだろうが、群れを指揮するものが現れるわけだ。
ある日を境に、ネビルが孤独に耐えられなくなっていくのがつらい。
世界にたったひとり。まわりは敵ばかり。

その孤独感溢れる表情に泣いてしまった。

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2007/12/23

ヒーローズ

Hiros

知らないうちに超能力を身につけてしまったことから、これまでの生活と一変してしまう人々。
ヒロは日本で企業に勤めていたサラリーマンだが、彼には時空間を超える能力があり、日本人の友人、アンドウ(彼には能力はなさそう)と、アメリカへやってくる。
ピーターは、看護士だったが、空が飛べる能力があると、なんとなく感じていた。
兄は、検事であり、選挙に打って出ようとしている中、この弟を邪魔に思っていたが、あまりに思いつめて、とうとうビルから飛び降りてしまう弟を救おうとして、飛んでしまう。
実は、ピーターには飛ぶ能力があるわけではなく、彼には周りの超能力を吸収するという、特殊で、まだまだ不明な能力者だったのだ。

他にも他人の心が読める、人格が凶暴冷徹な人物と入れ替わる、未来を描く力を持ってしまうなどといった、様々な人々が登場する。
ことに、死んでも生き返る、脅威の治癒能力を持った女子高生クレアは、圧巻だ。
共通するのは、皆普通の人間であって、これまで平凡に生きてきたこと。
それなのに、彼らをひとりずつ、殺害しているサイラーという謎の男が現れ、能力者が危険にさらされてしまう。
能力者達は、絵で未来を表すアイザックの予言のもと、ニューヨーク大爆発を食い止めるために、徐々に集まりつつある。

まだ、途中なのだけれど、おもしろい。
キャラクターが、主要人物だけでもたくさんいるのに、少しも混乱せず、それぞれの能力、性格までも把握できる。
日常に根ざしたSFであるため、登場人物達の能力によって変わった自分へのとまどい、その意味、今後の生き方への葛藤などが、細かに伝わり、感情移入がたやすい。

しかも、かなりの制作費を投入しているらしく、細かな設定から、大規模なアクションシーンまで迫力満点だ。
彼らが、使命感だけでなく、身の危険を感じつつ行動せざるを得ないというところも、どきどきさせられる。
クレアという、不死身の女子高生の義父も、サイラーを捕らえてなにやら怪しげだし、未確認の力を持つピーターは、自分が燃えて大爆発を起こしてしまう夢を幾度も見ては、苦しんでいる。
爆発のもとは、本当にピーターなのだろうか?
謎が起きて、解き明かされ、また謎が膨らんで……と、毎回楽しみにさせてくれる。


年末一挙放送を録画し損なってしまったけど、また2月にあるとかで、見そこなった方達には、朗報です。

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2007/12/19

変更しました

映画の感想もたいしたことないし、読書感想もたいしたことないし……っていうので、ひとつにまとめることにしました。

なるべくイラストを多く描いていくつもりですので、今後もよろしくお願いいたします。

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2007/12/17

デッドリンガー

Hutago

孤児で、幼い頃の記憶がないマチアスは、妻と息子と三人で穏やかな幸せを得ていた。
妻のお腹には、新しい命が宿っており、その誕生を心待ちにしている。

ところが、母が亡くなったという知らせと共に、呼び出された弁護士のもとに、自分とそっくりの男がおり、それが生き別れた兄だと知って、激しく動揺する。
兄は、過去の自分のことすら忘れたマチアスに、どこかおかしな態度をとる。
やがて呼び出された兄、トマの家に出かけたマチアスは、トマではなく妻らしい女性に抱きつかれて、慌てて家を飛び出す。

夫と間違えたらしいトマの妻エレナと同様、自分の妻と子も、やがて訪ねてきたトマと夫の区別がつかなくなっているのを知って、マチアスは不安を覚える。
血を見ると貧血を起こす体質、時折よぎるフラッシュバックに浮かぶカミソリ……。
父が生きていると知って、訪ねたマチアスは「おまえは死んだのだ」と、突き飛ばされ、過去に幼い自分をそういって閉じこめた記憶を思い出す。
いったい、どうなっているのか、自宅に頻繁に現れるトマに、すっかり懐いている息子と妻の存在……。

やがて、妻はマチアスに殴られたといって、傷だらけでバスルームに閉じこもっていた。

双子ものって、とても興味があるんだけど、これだけ似ていたら怖いかも。
本来、孤児ではなかったと喜んでいいはずのマチアスは、兄の取る不可思議な行動にすっかり疑心暗鬼になってしまうあたり、気の毒なんだけど、妻と子供の態度もちょっとどうなの? とか思ったり。
なんにしても、血とカミソリのイメージがまとわりついた過去に焦点が合ってきて、そうなるとこの結末は??? と思わないこともない。
そこまでそっくり、というのも解せないが、過去のいわくのあとにまだそっくり??? というのがね……。
ラスト、どっちがどっちが分からないようにだろうけれど、赤いシャツと黒いスーツをふたりともが着ている、というあたりに違和感が。

けれども、残酷で哀しくて、どっちにもかなり同情してしまったのは、ひとえにいい男だったからでしょうか?(笑)
まあ、下手な映画を見てあ~んということが多い昨今、主人公だけでもいい男ならまあいいか。

結局中身よりもそこしか見てないのかい? アタシ……。

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2007/12/09

007 カジノロワイヤル

007

ああ、またもや俳優さんのイメージを壊してごめんなさい。これが私の手一杯です。
ダニエル・クレイグのジェームズ・ボンド……実はあまりこれまでの作品は見たことがないの。でも、ダニエルだったら見たい、という思い入れがあったわけ……。

ジェームズ・ボンドがダブルオーに昇格し、一時は恋に迷い、その職を捨ててもいいかとすら思った時期があったという話。
それにしても、アクションものすごかったです。高い工事現場を、すいすいと昇ったり下りたりする悪人に対し、彼よりも少しばかり知恵を使って、それでも肉体を酷使して後を追い続けるジェームズ。
若いスパイなだけに、血気盛んでもあり、少々オーバーヒート気味で、ミスもあり、上司のMという女性に叱られてばかり。

そして、カジノロワイヤルに参加することで情報を探る任務に就いたボンドは、財務管理担当の女性と出会う。
自信満々で、でも寂しげな瞳をした彼女は、襲われかけ、またそれを迷いなく処理するジェームズにもショックを受けてしまう。
彼女に恋をしたジェームズは、すべてを捨てて辞表を出す……。

いやあ、筋はあんまり気にしてなくて(笑)。
毒を盛られて死にかけるジェームズ。そして、うんまあ、なんつ~えぐい拷問を……。
美しすぎるほどの裸体を椅子に座らせて、そんな、あんた無茶な……って、見てる方がつらかったりして。
けど、ダニエルの魅力満載。

あまり見てないから、私だけの個人的なイメージだけど、ボンドってもっとかっこつけた洒落者なのかと思っていたら、意外にもナイーブで渋い男だったのね~。
それとも、後年変わっていくのかしら。
ダニエルが継続してボンドを演じてくれるなら、また見たいけど、どうでしょう?

とにかくいい男は、なにをしても(されても)いい男(笑)。

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2007/11/25

ボストンシャドウ

時代は、ずいぶん戦後間もない頃。新生ボストンとして生まれ変わろうとしている街は、開発や解体が繰り返され、市民と行政の間にかなりな隙間がある。

そこにアイルランド系一家、デイリー家がある。一年前に刑事だった父を亡くしたばかりの妻、マーガレット。その長男ジョーは刑事、次男マイケルは検察官、そして末っ子のリッキーは空き巣泥棒。

ジョーは大柄で、最近めっきり太ってきたが怒らせると誰よりも強く、また彼なりの正義感も持ち合わせていて、母の良き相談相手、一家の大黒柱だった。彼には妻も13歳の息子リトルジョーもいるが、玉に瑕なのが博打好きなところだ。
そして警官の半分はそうだといわれている(劇中)袖の下をもらうことも忘れない。だが、そのことが原因で、彼はギャングと抜き差しならぬ関係に陥っていく。

マイケルは検察官とはいっても刑事事件はほとんど扱わない。土地収集が専門で、それでいいと思っている。兄弟の中で一番繊細で気むずかしく、持病の偏頭痛が父亡き後から頻繁に起こり、苦しんでいる。兄弟で唯一ハーヴァード大学を出ている苦学の主である。
街を騒がせている、中年の女性以上を狙うという、ストリンガー(首を絞める)という猟奇的事件で組まれた特捜班に入れられ、困惑しているところだ。

弟のリッキーは卓越した技術と誇りを持った泥棒。入られたことすら分からないほど完璧に盗みを行い、ひとり優雅に生きている。誰もに本心を見せず、家族にすらそれは変わらない。唯一恋人のエミリーだけはそんな彼の本心を分かっている。

素朴な、裕福でない一家を襲った一年前の父の死から、新生ボストンの街に巣くうギャングたち、そして首を絞め、女性を侮辱的に殺してしまうストリンガーという殺人鬼。実はこの事件は本当にあったことなのだという。ただ、この話の中では虚偽織り交ぜてあり、誰が犯人かということはそれほど重要ではない。

この物語のおもしろさはやはり、この三人兄弟のキャラクターによる何気ない生き方、ごくまじめに暮らしてきた者たちがいかに危険と隣り合わせてしまうか、踏み外し、または幸運に恵まれていくのかという、ホームドラマなのかもしれない。
母のマギーは常に彼ら兄弟の女王として存在していたのに、いつの間にかジョーが柱となり、一番ひ弱だと思っていたマイケルがジョーを、あるいは母親を乗り越えていきかけたとき、一抹の安堵とショックを感じたりする。
マイケルは、父の親友であったコンロイという刑事が、母と恋仲になっていることすら許せない気むずかし屋で、そのコンロイにある疑惑を抱き続けて母と対立する。

マイケルは要領のいいリッキーや、木訥なジョーとは違って、常に偏頭痛と闘いながら少しずつ自分の役割を心得ていくのだ。
そうして、三人は兄弟げんかをしながらもお互いを愛し、母を愛し、父を尊敬し続けている。
シリーズになったらいいのに、と思うほど味のあるキャラクターだったけど、きっとそれはないのかもしれないな。
でも、できればもう一度ジョーとマイケルとリッキーの兄弟に会いたい……。
そんなふうに身近に感じるお話でした。

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2007/11/23

ハイテンション

Haitenshon

田舎の牧場を買って住んでいる一家の元へ帰る友人に、マリーは同行した。
彼女と一緒に静かに勉強をするためだ。
あてがわれた3階の部屋で、マリーは深夜まで眠れずにいた。
そっと自慰をし、自己に没頭するマリーは物音で起き上がる。

一階には古く、大きなトラックが駐まっており、たった今この家の主がむごたらしく殺されたばかりだったのだ。
物音を聞いた母親もまた、餌食になってしまう。
友人の元へかけつけると、彼女は自分のベッドの上で鎖で縛られ、猿ぐつわをかまされていたが、はずすことができない。
犯人がやってくる物音に、彼女はひとまず逃げ、やがてその家の小さな息子までが殺されたと知って愕然とする。

おまけに友人は縛られたままトラックに乗せられ、それを救いに行ったものの、マリーもまたトラックに閉じこめられてしまう。
ガソリンの給油で停車したトラックから、そっと降りてマリーは店員に救いを求めるが、彼もまた無惨に殺されてしまう。

これ、クーンツの小説が原作かなあと見ながら思った。
怖いし、友人はさらわれたけど、それを見過ごせば自分は助かるのに、敢えて犯人を追っていく。
どきどきどき・・・。
私なら逃げる――かもしれない。いや、友人を助けねば。
そうだ、助けるんだ!
クーンツの小説は、友人を救うというわけではなかったけど、やはりそうだわ。
フランス映画だけれど、間違いないな、だってここまでの展開はそっくり同じだわ、と思いきや、後半は犯人に追われるマリーが彼をあっさり殺してしまったあたりから、いや違う、と思い直した。

むごたらしい一家惨殺を企てたのは誰なのか?
・・・ってことを書いてしまうと、もう見る価値はないので内緒だけれど、ちょっといろいろ突っ込みたくなるところ多数かもしれない。

なぜ、犯人がここまで残虐に一家を惨殺しなければならなかったのか、その布石となる部分がほとんどないし、前半はじめに、「犯人」が生首でナニしてるシーンとかも紛らわしい。
こんなふうにやらねばならなかったのか。
もともと、そういう資質があったのか?

終わってみると、意外にありがちな話でもあったりして。
これに続けて見たもう一本も、実は同じオチ。けっこう多いのかもしれない。
でも、騙されたわ。
アタシ、素直つーか、なんも考えずに見てしまうつーか、要するに賢くないので(笑)。
たまたま二本続けてみたけど、別の日に見たらやっぱり騙されたかも(笑)。

でもこの映画、不必要なほど血がいっぱい流れるので、駄目な人は止めた方がいいかもね。極めて残虐なスプラッター系です。

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ディオニュソスの階段

時代は、まだ馬車が走っている頃。十九世紀の幕開けを迎えた街。
どこかの市と、その外れにある「地獄」とすら呼ばれる無法地帯に、敏腕刑事であったミルトン・ジェルミナルは左遷される。
彼が、かつて解決した事件で凶悪犯を逮捕した際の心の傷が癒えず、麻薬に手を出してしまったからだ。
その街で、富裕層の夫人が惨殺される。身体中の噛み痕、切り刻まれた無惨な遺体は警官たちをもショックを与える。

美しい刑事は、その街で両腕が生まれつきない研究所の所長のノヴェールと出会う。彼は、この町の検視を行う医師なのだが、自分では執刀せず、助手に的確に指示をしていくさまは、人柄と頭脳の良さを明晰に物語っている。
ジェルミナルは、この彼を最初恐れる気持ちにすらなるが、やがてふたりで事件を解明するとともに、自分自身が負ったジャンキーという負の部分をもこのノヴェールに委ねていく。

街は大きな工場に勤める工員たちが多く住み、彼らは賃金の低さや自分たちの待遇に常に不満を持っている。そして、社会主義者の青年に扇動されるようにストライキを企んでいる。そこの行程長であるスティグルは、それを抑えつつも、チャンスを待てと工員たちを諭す。
スティグルは、まるで天使のように美しいが、両手は酸に焼け、不可思議な雰囲気を持った男だった。

殺人は次から次へと立て続けに起き、ジェルミナルは非科学的な捜査で血迷っていく署長とも戦いながら、科学的な新しい捜査と自分の勘を信じて、真実に近づいていく。

……う~ん。くらい。つらい。
美しい男が出てくるのだが、巻末にも「作品の性質、作品の時代背景を考慮して、現在使われていない表現を私用している……」旨が記されているとおり、確かに現在の出版界では有り得ないほどの厳しい表現が多い。
ノヴェールの負った、生まれつきの姿態に対しての人々の言葉も、それ以外のこともけっこう、つらい、と思う部分が多かったのだが、確かに時代が古すぎるだけに、そういった心ない言葉が平気で使われていたのは間違いないのだろう、とも思える。
そうして、そういった人々の扱いの中、毅然として弱き子供たちを愛しているのベール伯爵の姿が、ひどく魅力的に描かれている。
ひどい言葉が多いだけに、彼の生きてきたものがただならぬ道だったと、かえって知ることになるのかもしれない。
また、彼の両腕の代わりに、ぴったりとそばにいる巨人ゾラは、大人にならないままの純粋な魂を持った、彼の騎士である。
このゾラが、また物語の陰惨さを救ってくれる。

そして事件が落着した、そのあとにタイトルにある「一段目、二段目~」という章がが始まり、犯人ディオニュソスとノヴェール伯爵との事の起こりの物語が始まる。
それまでジェルミナルを中心に回っていた世界が、ひと息に過去に戻るわけだが、犯人が分かってふ~んなんていう気分でいた読み手を、ひと息に切ない気分に落としてしまうかのようだ。

こんなふうに生まれなければ、こんなふうに育たなければ、彼にはもっともっと違う人生があったであろうのにと思わせるくだりに「殺人犯」への憎しみが遠くなっていく。
そして、なにもかもを否定された、現在としての彼の心情に想いが至ってしまうのだ。

だから読後に、なんだかもの悲しい気分になる。
けれども、ジェルミナルをも救ったノヴェール伯爵と、その僕であるゾラがお互いを支え合って生きていく姿を思い出すと、少し救われる……かなという気分でもあるのだけれど。
いろいろいろいろ、考えさせられてしまう物語でした。

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2007/11/17

理由あって冬に出る

ごく普通の高校で、美術部に所属する葉山。
この学校の文化部は、今は使われていない校舎に寄せ集めれられており、文化部以外には出入りはほとんどない。
吹奏楽部、茶道部、演劇部など、てんでに部屋を使っているし、美術部には葉山以外にはまじめな生徒はおらず、先生も自分の制作に余念がない。

そんなとき、この校舎に現れるという「壁男」の噂が流れる。
そのうえ、半年ほど前に行方不明になったという女性との幽霊までが出るというので、怖がる吹奏楽部の部員たちは練習に身が入らない。
その吹奏楽の部長は、男らしい話し方をするいかした女生徒だが、幽霊などいないといいはって、夜それを確かめに残るという。
なぜだか、そのよその部の騒動に巻き込まれ、人のいい葉山はそれにつきあうことになってしまった。
ところが、そこに幽霊の鳴らすフルートの音と、しかも壁男までが現れてしまった!

葉山をいつも勧誘に来る文芸部部長の伊神先輩は、けっこうな変人だが推理力もあり頭もいい。
その彼が、乗り出してきて葉山はまるで彼の助手のように、なぜだが幽霊騒ぎに一番関わりをもってしまうのだ。

伊神先輩は、自信過剰気味の理性的な人物。この彼が、めっぽうおもしろい。
誰もが壁男の出現に、恐れおののいているときに、ひとり冷静に状況を見ている。
そして、絵に描いたようにいい人柄が滲み出る葉山の一人称の語り口が、けっこう笑え、彼が意外にお茶目で周りをよく見ていることを物語っているのだが、それでいて助手的役割をちまちまとこなしているのが、愛らしくさえある。

高校の頃って、ひとつ、あるいはふたつしか違わない先輩がけっこう絶対な存在だったりしたよなあと、自分のはるか昔のことを思い出したりしたのだが、後書きを読むと、やはり最初の設定は過去を振り返る、という少し前の話だったらしい。
けれども、必然性を考えていくうちに現在進行形でいいのでは、とこの形に変えられたそうだが、どことなく自分の過去を思い出してしまうあたり、空気が少し前だということを告白して(笑)しまっているのかも。
そんなこんなで、懐かしさを勝手に感じつつ、登場人物たちひとりひとりの性格がおもしろく、また、ミステリであるにもかかわらず、陰惨な事件というのはほとんどなくて、楽しく読むことができた。

そしてラストに、葉山は涙を流すのだ。
「壁男」の、真の正体を知って。

同級生のような親近感を感じた、素敵な一編でした。

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2007/11/10

バイオハザード3

Vio3

赤いドレスを着たアリスが、得体の知れない場所で目覚める。
行く手を阻む怪しげな罠に、立ち向かっていったものの、とうとうアリスは死んだ――。

え? のっけからですかい? というわけもなく、ちゃんとアリスは生きておりました。
荒野の真ん中に立てられた掘っ立て小屋。長閑な景色かと思いきや、それを取り囲んでいるのは件のゾンビの群れである。
しかもものすごい数。
小屋を何十回分もエレベータで下りていくと、そこにはハイテクな研究所が。
アリスはそこで死んでいるわけです。
たくさんのクローンが。
でも、クローンではやはり弱い。本物のアリスを捜すことこそ、研究を活かす方法だと科学者が彼女を捜し出す。

ひとり荒野をオートバイで駆けめぐりながら、アリスはまたカルロスに出会うことになる――。

あらあ、カルロス渋い。

映画館まで行って一番なにが嫌かというと、つづく、になっているところかなあ。
少なくともすぐに見られるというわけでもなくて、これはつらい。
バイオシリーズも間違いなく4に続くことでしょう。

まか不思議な力まで得たアリス。
もともと強かったのに、パワー増強。
実は、バイオハザードはゲームは怖かったけど、映画は怖いとはあんまし。
だって、主人公強いからねえ。
そういうわけで、アリスが見せる砂漠ファッションとか、アクションとか、カルロスの男前のとことか(笑)堪能するにはいいでしょう。
あと、アリスの瞳が宝石みたいに澄んでいて、汚れた格好の中にいてひときわ目を惹いた。

ゲームにもしょっちゅう現れたカラスや犬の変身した姿は、人間のゾンビよりもなおいっそう不気味でした。

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2007/11/08

毒魔

「この国は世界中から嫌われている」

ショッキングなほど、自国に対して醒めた視線がすごい。
バスターミナルで、一瞬の間に百名以上の人間が死んだ。皆、血に染まり、あっという間に、しかしものすごい苦痛の形相で死に至っていた。
これはテロなのか、何かのガスが撒かれたのかと調べを進めるが、ガスではなくなにかの菌であることが分かった。
しかも、じきに感染の心配はないという結果が出た。
もし、体中から血を流して死んでしまうというエボラ熱ならば、もっと長い潜伏期間とあとあとまで、感染のおそれが残るはずなのに。
どうやら遺伝子操作を加えて、死に至るスピードを調整しているらしい。

問題は、「これが始まりで、次の日曜に終わる」という予告メッセージが届いたことだ。
FBIやCIAは、目の色を変えてアラブ系テロリストたちを探し、州警察が来て、バスターミナルにいて感染をしなかった人々は、町の一角に足止めをされ・・・。

これはノンフィクション作家フランク・コーソのシリーズもので、彼は今回もこの事件に関わってしまう。
というより、自ら飛び込んでしまうのだが。
世捨て人のような生活をして、ボートに住んでいるコーソは、事件の本質に迫っていくことで、暗澹とした気分にすらなる。
テロリストは、今注目されている人種ばかりではない。
「この国は世界中から嫌われている」
そうして、他所での戦争を行い、自国は安全に保っていたはずの巨大国家は、いつの間にかその懐に、たくさんの「憎しみ」を誘い入れてしまっているのかもしれない。

幾度も幾度も出てくるこの言葉は、おそらく作者が日々考えていることなのかもしれない。この部分だけが、やけにリアルだ。
火種はあちことにあって、それはこの巨大国家に限らず、地球規模で人々の心に影を落としているのかもしれない。
ただ、理由はどうれあれテロを起こしていい理由はないし、それに巻き込まれて罪なく死んでいった人々を思えば許せない行為には違いない。

それでも、犯人たちの姿が、ひどく哀れに思えるのは――仕方ないのだろうか。

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2007/10/30

麦の海に沈む果実

電車に揺られて、文学少女の理瀬はある寄宿学校へ入ることになっていた。
そこはなんだか伝統色の濃い古くて大きな学校である。
校長は、うっとりするほどの大柄な美人――だと思ったら、なんと男性で、時と場合で着るものを換え、変幻自在らしい。

学校には、二種類の生徒がおり、ひとつは揺りかご組。もうひとつは墓場組。
揺りかご組は、英才教育や、いろんな才能を伸ばすために金銭を惜しまない学校のシステムのため、敢えて両親が入学させた、帰るべき家のある生徒たち。
そして、墓場組は、わけあって学校へはいるお金はあるのに、休暇に家に戻ることも躊躇われるような、いわば捨てられかけている生徒たち。

学校ではファミリーで行動することが決められており、全員が大人しく、現実を見て見ぬふりすらしているのではないかとも思える。

理瀬は学校に入ってから、綺麗だが不気味な少年に追いかけられ、あるいは校長のお茶会で降霊術をしたせいで、霊に乗り移られたりして、なんだか不思議な体験をする。そのうち、彼女は徐々に内側にこもり始め、どうしてなのだか自分でも分からないのだ。

なんだか、不思議な話だ。
設定そのものが現実離れしているのに、どこかにありそうでなさそうで。
昔馴染んだ優雅な漫画の主人公たちを見ているような、不思議な世界に入り込んだ気分。
理瀬の目線で描かれているのに、なぜだか彼女のことがよく把握できない。
周りの普通のタイプの少女とは、ちょっとずれがあると自分でも感じているとおり、理瀬にはなにか秘密の匂いすらする。

次々と起きる殺人事件。
霊の存在すら疑われる現象。
一年間を通して、理瀬が変化していくさまや、学校行事の優雅な中で起こる陰惨な事件、そして綺麗な男子生徒や女生徒たち。
まか不思議な校長と、読む速度がもどかしいくらいに、耽美な世界がくるくると変わっていく。

理瀬はなにものなのか?
彼女は学校から出られるのか?
それとも、殺人事件の裏にあるものが彼女に関わることなのか?

雰囲気だけでも堪能できる、素敵な物語でした。

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2007/10/19

背の眼

作家の道尾は、ある山奥の村に行く。
白峠村という、変わった名の村だ。
滝から落ちてくる、清らかな川のそばで、不意に「オグロアラダロゴ……」
と、いう声が聞こえてきた。
その声に、恐怖を覚え、予約していた宿を慌てて引き払い、家に戻ってしまう。

だが、どうしてもその恐怖が癒えないまま、「心霊探究所」を開いている友人「真備」の元へと訪れる。
研究所ではなく、なぜ探究所なのか疑問に思いつつ、霊など信じてはいないが、それを見極めたいという、変わり者の真備に自分の体験を語る。
そして、それは確かに霊かもしれないとも真備はいい興味を持ったようだった。
背が高く美しい、女性に間違われるほどの美貌を持った男だが、一風変わっていて、助手の北見凜という女性と共に、道尾を連れて白峠村へ行くことになった。

真備のところへ相談に来た手紙と、心霊写真らしいものには、背中に眼のようなものが映っている。
道尾は、昨年白早川というあの川で無惨に殺された少年のことを知る。
そして、その背中に映った目が、彼のものであるという科学的な証拠を見せられ、いよいよ霊体験だったのだと思い知る。

ホラーである話に思える出だしだが、実は上質なミステリー仕立てになっている。
宿の、人のいいご主人歌川が、客へのサービスに飾ってくれる東海道五十三次の浮世絵、天狗の面を彫っていたという、亡くなった少年の祖父。
山道にはそぐわない、白い服の女性。
最初の少年に続いて三人も行方不明になったという、忌まわしい荘厳な山。

背景はばっちりで、まるでその山に自分もいるかのような詳しい描写にちょっと背筋がぞっとする。
そして、真備という不思議な男の過去。
そばに常にいる、北見という女性。
霊体験を思い切りしてしまったことで、ちょいびびり気味な道尾。

後半は、流れるようにいろいろな謎が解き明かされる。
なるほど、そうか、というちょっと「盗まれた街」にも共通するような原因と結果。

悲しい、胸に詰まるような寂しさの漂う物語の中で、道夫、真備の友情、そして北見の想いが重なり合って、なんだかとてもいい作品でした。
今後もこの三人、いい感じでシリーズを続けてくれそうで、期待してしまう。

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2007/10/15

ネフィリム超吸血幻想譚

街の人々は、吸血鬼の存在を物語だと思っている。
だが、確実に街にはそれが存在していた。
吸血鬼たちは、それなりに犠牲者を仲間にしない方法で人間を狩り、自分たちの餌を減らさないよう、考えている。
吸血鬼には、それぞれに能力の差が歴然とあり、だから彼らの間には無用な諍いはッ生じない。もし、逆らえば弱い吸血鬼は一瞬で殺されてしまうからだ。

ランドルフという男には妻があり、彼はまじめな生活を営む人間だったが、ある日帰宅した家の中で変貌した妻の姿を見る。
「カーミラ」という、そこはかとない残忍で力のある吸血鬼が妻を完全に支配し、たった四歳になったばかりの娘はむごいやり方で惨殺されていた。
復讐を誓ったランドルフは、人知れず編成されていたコンソーシアムという、対吸血鬼の組織で辣腕をふるうようになる。

ヨブはまた、強力な吸血鬼のひとりであったが、ミカという少女に出会って彼女から心を癒される。血を吸わないでといわれて、それを実行してみようかとすら思うヨブ。だが、人間対吸血鬼の戦いのさなか、さらに強大な敵が存在していた……。

小林先生の描かれる世界は、独特だ。
この世界も、そこらの吸血鬼たちの様子とはもう、わけが違う。
残酷だ。
とにかく、やられる人間も、吸血鬼も、ずたずたになるほど残忍な目に遭う。
そして、独特の機械と肉体が混在する不思議な世界……。

「J」という、吸血鬼でも人間でもない、どちらにとってもさらに冷酷なこの敵が、さらに世の中を混沌に巻き込んでしまう。

「J」は金髪碧眼で美しく、その裸体を晒したまま暴れ回る。
誰と戦っても、どこふくかぜで、敵に塩を送ってまで戦いを愉しもうとする。
無力なばかりだとなめられている人間に、勝ち目などほとんどない。
それでも、ランドルフは戦うのだ。

ページを開いたそのときから、息もつかせない戦いの連続で、そのままラストまで突っ走り、ああ、と息を吐いた時にはやっと物語は終わる。
で、「ミカ」という少女はなにものだったのかな~という素朴な疑問が残ったまま、物語は終わる。
これ、続きがあるのかしら?
あってほしい気もする。
ヨブという、心を持った吸血鬼が、血を吸わないままでミカとこの先どうなるのか、それを知りたいと思う。

かなり描写は残酷なので、あまりそういうのが苦手な人にはきついかも。
でも、ホラー大好きな人なら、絶対にオススメ!!

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2007/10/10

盗まれた街

「叔父が、叔父ではない気がする」
という訴えを聞いた主人公は、その叔父というののどこが変わったのかが分からない。性格も癖も、もちろん姿も少しも変化はない。
ただ、「なんとなくどこかが違うんだ」というだけでは、友人の精神科医を紹介するほかない。
けれども、街中、立て続けにそういう肉親が変わった、と訴える人が続出する。
そして、恋人未満、友人以上になりつつあった彼女までが「父が違う」と言い出す。

やがて、仲の良い友人宅に呼び出され、地下室である屍体を見せられる。
その屍体には、なんの特徴もなく、まだ死後硬直すらないようで、生きていたものの労苦すらないように見える。
すべすべの手のひらには、指紋すらなかった。
そして屍体は変化していく。
地下室のある家の主である友人に……。

知らなかったんだけど、古い作品だったようだ。
だからまだ、携帯もない。
彼らは、仲間との連絡がとれなくて四苦八苦する。
地下室の屍体が、町の人の騒ぐ、「肉親でない気がする」という部分につながっていく。この、得体の知れないものが自分たち人間に成り代わっているのだとしたら……。
だが、その想像はあまりにも荒唐無稽で、当人たちすら確信はない。
一度は逃げ出したものの、やはり街へ帰ろうと戻っていくあたり、不安がよく感じられる。

そして、世間には常識では計れないものがたくさん起きているのだという、新聞や雑誌の切り抜きを読んでは、今起こっていることと照らし合わせてみる。
地下に屍体があった友人は、間違いなくなにかが起きていると確信しているが、別の精神科医の友人は、「集団ヒステリー」という症状について語り、それと同じようにないものがあるがごとく見えるのだ、という人の不思議を説く。

けれども、確実に街は変化し、人々は人ではない者になっていっているのだ。
変化するのに苦痛はない。
これからも、これまでと自分の記憶も感覚も少しも変わらないのだといわれても、主人公たちにはそうは思えない。

眠ってしまえば、確実に自分は消滅し、自分でない者が誕生すると知って、必死に眠るのを堪える数少なくなった人間たち。
よほど、集団に染まった方が楽だと思いつつも、一縷の望みを捨てきれない。

大きな転換シーンや派手なアクションはないが、人が望みを捨てず、人であることに固執することが、いかに大切なことがを教えてくれた気がした。

私は、よくゾンビ映画とかを見ていると、「逃げるより一緒に徘徊したほうがまだましかも……」とか思ってしまうへたれなので(笑)
戦うよりも、あっさり「人でない者」になってしまったかも……。

短いけれども、おもしろかったです。名作だそうな。

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2007/10/03

光の旅人 K-PAX

Hikarinotabibito

ニューヨークの駅に、光と共に現れたプロート。
だが、不審者と勘違いされ、警察に連行されてしまう。そこで、自分がK-PAXという地球から千光年離れた星からやってきた、と告げたために精神病院に送られる。

彼の治療を押しつけられた格好の、マイク・パウエルだが、話を聞いている家に深い興味を覚える。
彼の話は、妄想というにはあまりにも理路整然としすぎており、想像にしてはリアルであること、そして嘘をついているふうではない態度に疑問を抱いたのだ。
彼は、果物が好物のようで、バナナを皮のまま、堅い部分まで丸かじりにする。
それすらも、地球に住み慣れた人間には見えない。
ただ、外観はいかにもその辺にいそうな男にしか見えない。

ある時、知り合いの天文学者たちに話したことから、彼を研究所へ連れて行く。
「地球の子供が太陽系を説明できるのが当然のように」彼もまた、研究者たちが必死で解明しつつある、遠い銀河の果ての軌道を説明する。
それが、ほとんど研究者たちの結論と同じだということから、ますますパウエル医師は、のめり込んでいく。
そして、催眠療法を始めた、その口で語られたものは……。
なぜだか、彼が訪れてから他の入院患者たちの傾向が快方に向かいつつあるのは……?


ケヴィン・スペイシーの、穏やかで優しい瞳が印象的な映画でした。
彼は、これまでの宇宙人のイメージと違い、ださいジャンパーを羽織った、頭の禿かけた中年男。
けれども、落ち着き、感情を荒立てない彼にはそこはかとない魅力がある。
入院患者たちの個性豊かな面々は、こぞって彼とk-pax星に行くのだと張り切っているが、連れて行けるのはひとりだと断言され、誰がその幸運を掴むのか必死。

これまで表にでなかったおこもり夫人は、遊戯室へ出てきて、青い鳥を発見するもの、すべての世の中のものが怖いと思っていた男や、人から匂いがする、と怯える男。
様々な思惑を、一心に受けても穏やかなままのプロート。
けれど、彼が催眠療法で語ったのは、生々しい過去の記憶だったわけで、この男の、単なる妄想なのではないかとも思える展開。

ラストは、光に包まれ、宇宙へ旅立ったのか、それとも……というところで、私は当然、彼はk-paxの人だろう、そうであって欲しいと、珍しく真摯な思いで見てしまいました。

こんな宇宙人だったら、来て欲しい。私もお友達になりたいです。
k-paxには行かなくてもいいからさ(笑)。

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«ウエストポイントの幽霊