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2007/10/30

麦の海に沈む果実

電車に揺られて、文学少女の理瀬はある寄宿学校へ入ることになっていた。
そこはなんだか伝統色の濃い古くて大きな学校である。
校長は、うっとりするほどの大柄な美人――だと思ったら、なんと男性で、時と場合で着るものを換え、変幻自在らしい。

学校には、二種類の生徒がおり、ひとつは揺りかご組。もうひとつは墓場組。
揺りかご組は、英才教育や、いろんな才能を伸ばすために金銭を惜しまない学校のシステムのため、敢えて両親が入学させた、帰るべき家のある生徒たち。
そして、墓場組は、わけあって学校へはいるお金はあるのに、休暇に家に戻ることも躊躇われるような、いわば捨てられかけている生徒たち。

学校ではファミリーで行動することが決められており、全員が大人しく、現実を見て見ぬふりすらしているのではないかとも思える。

理瀬は学校に入ってから、綺麗だが不気味な少年に追いかけられ、あるいは校長のお茶会で降霊術をしたせいで、霊に乗り移られたりして、なんだか不思議な体験をする。そのうち、彼女は徐々に内側にこもり始め、どうしてなのだか自分でも分からないのだ。

なんだか、不思議な話だ。
設定そのものが現実離れしているのに、どこかにありそうでなさそうで。
昔馴染んだ優雅な漫画の主人公たちを見ているような、不思議な世界に入り込んだ気分。
理瀬の目線で描かれているのに、なぜだか彼女のことがよく把握できない。
周りの普通のタイプの少女とは、ちょっとずれがあると自分でも感じているとおり、理瀬にはなにか秘密の匂いすらする。

次々と起きる殺人事件。
霊の存在すら疑われる現象。
一年間を通して、理瀬が変化していくさまや、学校行事の優雅な中で起こる陰惨な事件、そして綺麗な男子生徒や女生徒たち。
まか不思議な校長と、読む速度がもどかしいくらいに、耽美な世界がくるくると変わっていく。

理瀬はなにものなのか?
彼女は学校から出られるのか?
それとも、殺人事件の裏にあるものが彼女に関わることなのか?

雰囲気だけでも堪能できる、素敵な物語でした。

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2007/10/19

背の眼

作家の道尾は、ある山奥の村に行く。
白峠村という、変わった名の村だ。
滝から落ちてくる、清らかな川のそばで、不意に「オグロアラダロゴ……」
と、いう声が聞こえてきた。
その声に、恐怖を覚え、予約していた宿を慌てて引き払い、家に戻ってしまう。

だが、どうしてもその恐怖が癒えないまま、「心霊探究所」を開いている友人「真備」の元へと訪れる。
研究所ではなく、なぜ探究所なのか疑問に思いつつ、霊など信じてはいないが、それを見極めたいという、変わり者の真備に自分の体験を語る。
そして、それは確かに霊かもしれないとも真備はいい興味を持ったようだった。
背が高く美しい、女性に間違われるほどの美貌を持った男だが、一風変わっていて、助手の北見凜という女性と共に、道尾を連れて白峠村へ行くことになった。

真備のところへ相談に来た手紙と、心霊写真らしいものには、背中に眼のようなものが映っている。
道尾は、昨年白早川というあの川で無惨に殺された少年のことを知る。
そして、その背中に映った目が、彼のものであるという科学的な証拠を見せられ、いよいよ霊体験だったのだと思い知る。

ホラーである話に思える出だしだが、実は上質なミステリー仕立てになっている。
宿の、人のいいご主人歌川が、客へのサービスに飾ってくれる東海道五十三次の浮世絵、天狗の面を彫っていたという、亡くなった少年の祖父。
山道にはそぐわない、白い服の女性。
最初の少年に続いて三人も行方不明になったという、忌まわしい荘厳な山。

背景はばっちりで、まるでその山に自分もいるかのような詳しい描写にちょっと背筋がぞっとする。
そして、真備という不思議な男の過去。
そばに常にいる、北見という女性。
霊体験を思い切りしてしまったことで、ちょいびびり気味な道尾。

後半は、流れるようにいろいろな謎が解き明かされる。
なるほど、そうか、というちょっと「盗まれた街」にも共通するような原因と結果。

悲しい、胸に詰まるような寂しさの漂う物語の中で、道夫、真備の友情、そして北見の想いが重なり合って、なんだかとてもいい作品でした。
今後もこの三人、いい感じでシリーズを続けてくれそうで、期待してしまう。

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2007/10/15

ネフィリム超吸血幻想譚

街の人々は、吸血鬼の存在を物語だと思っている。
だが、確実に街にはそれが存在していた。
吸血鬼たちは、それなりに犠牲者を仲間にしない方法で人間を狩り、自分たちの餌を減らさないよう、考えている。
吸血鬼には、それぞれに能力の差が歴然とあり、だから彼らの間には無用な諍いはッ生じない。もし、逆らえば弱い吸血鬼は一瞬で殺されてしまうからだ。

ランドルフという男には妻があり、彼はまじめな生活を営む人間だったが、ある日帰宅した家の中で変貌した妻の姿を見る。
「カーミラ」という、そこはかとない残忍で力のある吸血鬼が妻を完全に支配し、たった四歳になったばかりの娘はむごいやり方で惨殺されていた。
復讐を誓ったランドルフは、人知れず編成されていたコンソーシアムという、対吸血鬼の組織で辣腕をふるうようになる。

ヨブはまた、強力な吸血鬼のひとりであったが、ミカという少女に出会って彼女から心を癒される。血を吸わないでといわれて、それを実行してみようかとすら思うヨブ。だが、人間対吸血鬼の戦いのさなか、さらに強大な敵が存在していた……。

小林先生の描かれる世界は、独特だ。
この世界も、そこらの吸血鬼たちの様子とはもう、わけが違う。
残酷だ。
とにかく、やられる人間も、吸血鬼も、ずたずたになるほど残忍な目に遭う。
そして、独特の機械と肉体が混在する不思議な世界……。

「J」という、吸血鬼でも人間でもない、どちらにとってもさらに冷酷なこの敵が、さらに世の中を混沌に巻き込んでしまう。

「J」は金髪碧眼で美しく、その裸体を晒したまま暴れ回る。
誰と戦っても、どこふくかぜで、敵に塩を送ってまで戦いを愉しもうとする。
無力なばかりだとなめられている人間に、勝ち目などほとんどない。
それでも、ランドルフは戦うのだ。

ページを開いたそのときから、息もつかせない戦いの連続で、そのままラストまで突っ走り、ああ、と息を吐いた時にはやっと物語は終わる。
で、「ミカ」という少女はなにものだったのかな~という素朴な疑問が残ったまま、物語は終わる。
これ、続きがあるのかしら?
あってほしい気もする。
ヨブという、心を持った吸血鬼が、血を吸わないままでミカとこの先どうなるのか、それを知りたいと思う。

かなり描写は残酷なので、あまりそういうのが苦手な人にはきついかも。
でも、ホラー大好きな人なら、絶対にオススメ!!

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2007/10/10

盗まれた街

「叔父が、叔父ではない気がする」
という訴えを聞いた主人公は、その叔父というののどこが変わったのかが分からない。性格も癖も、もちろん姿も少しも変化はない。
ただ、「なんとなくどこかが違うんだ」というだけでは、友人の精神科医を紹介するほかない。
けれども、街中、立て続けにそういう肉親が変わった、と訴える人が続出する。
そして、恋人未満、友人以上になりつつあった彼女までが「父が違う」と言い出す。

やがて、仲の良い友人宅に呼び出され、地下室である屍体を見せられる。
その屍体には、なんの特徴もなく、まだ死後硬直すらないようで、生きていたものの労苦すらないように見える。
すべすべの手のひらには、指紋すらなかった。
そして屍体は変化していく。
地下室のある家の主である友人に……。

知らなかったんだけど、古い作品だったようだ。
だからまだ、携帯もない。
彼らは、仲間との連絡がとれなくて四苦八苦する。
地下室の屍体が、町の人の騒ぐ、「肉親でない気がする」という部分につながっていく。この、得体の知れないものが自分たち人間に成り代わっているのだとしたら……。
だが、その想像はあまりにも荒唐無稽で、当人たちすら確信はない。
一度は逃げ出したものの、やはり街へ帰ろうと戻っていくあたり、不安がよく感じられる。

そして、世間には常識では計れないものがたくさん起きているのだという、新聞や雑誌の切り抜きを読んでは、今起こっていることと照らし合わせてみる。
地下に屍体があった友人は、間違いなくなにかが起きていると確信しているが、別の精神科医の友人は、「集団ヒステリー」という症状について語り、それと同じようにないものがあるがごとく見えるのだ、という人の不思議を説く。

けれども、確実に街は変化し、人々は人ではない者になっていっているのだ。
変化するのに苦痛はない。
これからも、これまでと自分の記憶も感覚も少しも変わらないのだといわれても、主人公たちにはそうは思えない。

眠ってしまえば、確実に自分は消滅し、自分でない者が誕生すると知って、必死に眠るのを堪える数少なくなった人間たち。
よほど、集団に染まった方が楽だと思いつつも、一縷の望みを捨てきれない。

大きな転換シーンや派手なアクションはないが、人が望みを捨てず、人であることに固執することが、いかに大切なことがを教えてくれた気がした。

私は、よくゾンビ映画とかを見ていると、「逃げるより一緒に徘徊したほうがまだましかも……」とか思ってしまうへたれなので(笑)
戦うよりも、あっさり「人でない者」になってしまったかも……。

短いけれども、おもしろかったです。名作だそうな。

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2007/10/03

光の旅人 K-PAX

Hikarinotabibito

ニューヨークの駅に、光と共に現れたプロート。
だが、不審者と勘違いされ、警察に連行されてしまう。そこで、自分がK-PAXという地球から千光年離れた星からやってきた、と告げたために精神病院に送られる。

彼の治療を押しつけられた格好の、マイク・パウエルだが、話を聞いている家に深い興味を覚える。
彼の話は、妄想というにはあまりにも理路整然としすぎており、想像にしてはリアルであること、そして嘘をついているふうではない態度に疑問を抱いたのだ。
彼は、果物が好物のようで、バナナを皮のまま、堅い部分まで丸かじりにする。
それすらも、地球に住み慣れた人間には見えない。
ただ、外観はいかにもその辺にいそうな男にしか見えない。

ある時、知り合いの天文学者たちに話したことから、彼を研究所へ連れて行く。
「地球の子供が太陽系を説明できるのが当然のように」彼もまた、研究者たちが必死で解明しつつある、遠い銀河の果ての軌道を説明する。
それが、ほとんど研究者たちの結論と同じだということから、ますますパウエル医師は、のめり込んでいく。
そして、催眠療法を始めた、その口で語られたものは……。
なぜだか、彼が訪れてから他の入院患者たちの傾向が快方に向かいつつあるのは……?


ケヴィン・スペイシーの、穏やかで優しい瞳が印象的な映画でした。
彼は、これまでの宇宙人のイメージと違い、ださいジャンパーを羽織った、頭の禿かけた中年男。
けれども、落ち着き、感情を荒立てない彼にはそこはかとない魅力がある。
入院患者たちの個性豊かな面々は、こぞって彼とk-pax星に行くのだと張り切っているが、連れて行けるのはひとりだと断言され、誰がその幸運を掴むのか必死。

これまで表にでなかったおこもり夫人は、遊戯室へ出てきて、青い鳥を発見するもの、すべての世の中のものが怖いと思っていた男や、人から匂いがする、と怯える男。
様々な思惑を、一心に受けても穏やかなままのプロート。
けれど、彼が催眠療法で語ったのは、生々しい過去の記憶だったわけで、この男の、単なる妄想なのではないかとも思える展開。

ラストは、光に包まれ、宇宙へ旅立ったのか、それとも……というところで、私は当然、彼はk-paxの人だろう、そうであって欲しいと、珍しく真摯な思いで見てしまいました。

こんな宇宙人だったら、来て欲しい。私もお友達になりたいです。
k-paxには行かなくてもいいからさ(笑)。

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