理由あって冬に出る
ごく普通の高校で、美術部に所属する葉山。
この学校の文化部は、今は使われていない校舎に寄せ集めれられており、文化部以外には出入りはほとんどない。
吹奏楽部、茶道部、演劇部など、てんでに部屋を使っているし、美術部には葉山以外にはまじめな生徒はおらず、先生も自分の制作に余念がない。
そんなとき、この校舎に現れるという「壁男」の噂が流れる。
そのうえ、半年ほど前に行方不明になったという女性との幽霊までが出るというので、怖がる吹奏楽部の部員たちは練習に身が入らない。
その吹奏楽の部長は、男らしい話し方をするいかした女生徒だが、幽霊などいないといいはって、夜それを確かめに残るという。
なぜだか、そのよその部の騒動に巻き込まれ、人のいい葉山はそれにつきあうことになってしまった。
ところが、そこに幽霊の鳴らすフルートの音と、しかも壁男までが現れてしまった!
葉山をいつも勧誘に来る文芸部部長の伊神先輩は、けっこうな変人だが推理力もあり頭もいい。
その彼が、乗り出してきて葉山はまるで彼の助手のように、なぜだが幽霊騒ぎに一番関わりをもってしまうのだ。
伊神先輩は、自信過剰気味の理性的な人物。この彼が、めっぽうおもしろい。
誰もが壁男の出現に、恐れおののいているときに、ひとり冷静に状況を見ている。
そして、絵に描いたようにいい人柄が滲み出る葉山の一人称の語り口が、けっこう笑え、彼が意外にお茶目で周りをよく見ていることを物語っているのだが、それでいて助手的役割をちまちまとこなしているのが、愛らしくさえある。
高校の頃って、ひとつ、あるいはふたつしか違わない先輩がけっこう絶対な存在だったりしたよなあと、自分のはるか昔のことを思い出したりしたのだが、後書きを読むと、やはり最初の設定は過去を振り返る、という少し前の話だったらしい。
けれども、必然性を考えていくうちに現在進行形でいいのでは、とこの形に変えられたそうだが、どことなく自分の過去を思い出してしまうあたり、空気が少し前だということを告白して(笑)しまっているのかも。
そんなこんなで、懐かしさを勝手に感じつつ、登場人物たちひとりひとりの性格がおもしろく、また、ミステリであるにもかかわらず、陰惨な事件というのはほとんどなくて、楽しく読むことができた。
そしてラストに、葉山は涙を流すのだ。
「壁男」の、真の正体を知って。
同級生のような親近感を感じた、素敵な一編でした。
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