セル
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セル 上巻 (1) (新潮文庫 キ 3-56) 著者:スティーヴン・キング |
アイスクリームを買う列に並んでいた、漫画家であり美術教師のクレイの目の前で、女性が携帯をかけはじめ、いきなり歯を剥きだして暴れ出した。
同じ列で携帯を使っていた女子高生もまた、狂ったように他人に噛みつき、変貌した。
クレイは、近くにいた男とふたり、周りのすさまじい変化に呆然とするばかりだ。
クレイは独立するための作品をボストンの出版社に見せ、それが売れたばかりだった。 別居中の妻と息子に会って、それを伝えてこれからやり直しができるだろうかという矢先であり、家が遠い北のメイン州にあることから、ふたりの安否が気になる。
町はいよいよ騒然となり、一緒に逃げていたトムと共に母を亡くしたばかりの少女アリスと出会い、三人はメイン州を目指して歩き出す。
携帯によって不振な電波を受けた人々は、最初の暴力的な狂乱が収まってくると、徐々に変化を始めた。彼らは昼間よりそって眠り、携帯を持っていなかった人々は夜、食糧を探しながら各々の目的地へ向かって歩くしかない。
いきなりの展開にあれよあれよという勢いで読んでしまった。
どこから現れたかは不明なまま、あるいはテロかと思われる電磁波によって、人々は過去の記憶を「消去」され、眠りについて「再起動」されているのではないかという、コンピュータまがいの発想がおもしろい。
携帯が蔓延して、ほとんどの人々が持ち始めたために、騒動が起こったらすぐに電話を耳に当てるため、狂乱はあっという間に伝わってしまうのだ。
もし、今誰かが暴れ出して、殺人を起こしたりしたなら、やはり周りの目撃者はほとんどが携帯を開いて警察に電話するなり、知人に伝えるということをするのではないか。だからまるでゾンビのように自我をなくした人は増えるばかりだ。
そういう携帯を使ったホラーは多いが、キングの物語では単なる「ゾンビ」じみた人々とはならず、それが次第にもっと不気味な存在へと進化していくのが怖い。
取り残された人々は、疲れ、絶望して、次第にあっちの仲間になったほうがましでは、と思い始める。新しい人類の生き方として、選択する余地があるのではないかと。
クレイたちは、彼らが眠っている間身動きをしないことから、彼らを一斉に処分する方法を考えつく。
だが、そのために自分たちの立場はいよいよ悪くなってしまうのだ。
そんな彼らを誹謗する、普通の人々に、アリスは「でも、とりあえず自分たちは行動した」と告げる。「あなたたちはなにをしたの?」と。
今の、これまでの人間のまま生きようとする人たちと、それを捨ててもいいと投げやりになった人々との、戦いまで加わる。
そして、大切な息子をなんとしても救いたい、救えなくても今の姿を確認したい、というクレイの父性が悲しい。
子どもを思い続けるクレイに、ずっとついてきた満身創痍のアリス。ゲイの男、トム。寄宿舎に取り残されていたコンピュータの天才少年ジョーダン。
お互いの関わりがお互いを支えている。
いくつもの困難を乗り越えてきたが、やがてきっとゾンビになったか死んでしまったであろう息子を捜し続けるクレイと、トム、ジョーダンは道を分かつ。けれども、いつか会えるようにと、道路に印を残してくれるようにふたりに頼む。
荒廃してしまった、文明すら残っていない世界の中で、三人の友情が続くことだけが救いだったかもしれない。
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